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テーマパーク「養老天命反転地」、死なないための住宅「三鷹天命反転住宅」、巨大な円筒建造物「奈義の龍安寺」など、奇想天外な作品群で世界中に大きな波紋を投げかけてきた荒川修作が、2010年5月19日午前0時35分、ニューヨークで急逝した。生前、自身の建てた「三鷹天命反転住宅」について荒川はこう語っている。「ここに住むと身体の潜在能力が引き出され、人間は死ななくなる」と。

常識を軽々と越えた荒川氏の言葉の数々をはじめ、宇宙物理学者・佐治晴夫氏のインタビュー、三鷹の“死なない家”で生活する人々の身体的変化、そこで生まれ育った子供の記録映像を織り交ぜながら、芸術・科学・哲学を総合した斬新な都市計画を構想するまでに至った荒川の全活動を振り返る本作は、全人類の誰もが想像すらできなかった世界の可能性を浮き彫りにするとともに、壮大な生命賛歌を高らかに歌い上げる。




監督は自身が4年に及ぶ三鷹天命反転住宅の住人でもあり、特異な映像世界で海外映画祭の評価も高い山岡信貴。音楽は先鋭的な電子音響で音の概念そのものに変革を与え続ける渋谷慶一郎。やくしまるえつこ率いるバンド“相対性理論”とのコラボレーションも記憶に新しい。そしてナレーションには、国内外で常に注目を浴び続ける日本を代表する俳優・浅野忠信を迎え、荒川修作を語る上で申し分のないスタッフ陣が結集。宇宙創生以来、死の運命から決して逃れられなかった人間の限界に、生涯を賭して挑み続けた天才・荒川修作を見事に描き出した。



荒川修作は、1960年代に芸術家として衝撃的に出現。篠原有司男、赤瀬川原平らと“ネオ・ダダイズム・オルガナイザー”を結成するなどアヴァンギャルド芸術家として活躍。その後拠点をニューヨークに移し、夫人で詩人のマドリン・ギンズとともに本格的な活動を開始した。
その領域は、美術館での展示といった芸術活動にとどまらず、景観、テーマパーク、都市計画、映像、哲学的論考、建築までが含まれ、これまでに人類が作り上げてきた環境、思想、生活スタイルそのものの既存概念に、大いなる戦いを挑むもので、人間の本性を探求するものだった。

初期の“棺桶シリーズ”からダイアグラム絵画を経て、70年のヴェネツィア・ビエンナーレでは日本代表として「意味のメカニズム」を発表。97年にグッゲンハイム美術館にて日本人として初めて回顧展が開催され、世界中の著名人から多大な関心を受ける。評論家ローレンス・アロウェイ、ニコラス・カラス、哲学者アーサー・ダント、ジャン・フランソワ・リオタール、アンドリュー・ベンジャミン、ジャック・デリダ、量子力学者ウェルナー・ハイゼンベルグ、小説家イタロ・カルヴィーノ、  神学者マーク・テーラー、分子生物学者渡辺格など錚々たる名が連なる。

近年は“建築する身体”をテーマに、94年、岡山県奈義町に磯崎新とのコラボレーションで「奈義の龍安寺」を、95年に岐阜県にテーマパーク「養老天命反転地」を建設。そして05年、「志段味循環型モデル住宅」が愛知県名古屋市に、“死なない家”の「三鷹天命反転住宅」が東京都三鷹市に完成。続いて08年には“死なない家”第2号となる「バイオスクリーブ・ハウス」がニューヨークに建てられる。またそれらと平行して都市規模の天命反転プロジェクトの構想・提示を進めていた。

前述の「養老天命反転地」は園内すべてが斜面になっており、歩くだけでも足や精神に通常とは異なる負荷がかかり、特別なバランス感覚が必要とされる。「三鷹天命反転住宅」も同様で、滞在を続けると身体に特別な感覚が生まれ、人間の新たな可能性に気づかせてくれる建物だ。荒川は「ここに住むと身体の潜在能力が引き出され、人間は死ななくなる」と語っている。また、この住宅には「ヘレン・ケラーのために」と副題が付いている。三重苦を乗り越えたヘレン・ケラーは“天命反転”を成し遂げた人物だというのだ。“天命反転”とは、不可能と思われていたことが可能になること、死という宿命を反転させること等を意味する。人間の生命能力を最大限に発揮させるこの「三鷹天命反転住宅」は、今も人類史上最大の革命であると世界中から絶賛されている。

自身を“哲学、芸術、科学を総合し、実践する者”を意味する「コーデノロジスト」と称したその壮大な活動は、時間と次元を超え、荒川が死した今もなお、確かに生き続けている。